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仮想通貨業界で今後想定される訴訟ケース

仮想通貨業界で今後想定される訴訟ケースを法的観点から検証してみました

2021年1月7日

ネム580億円分の消失事件を起こしたコインチェック

2018年2月2日、約580億円相当のXEM(ネム)の不正流出を許してしまった仮想通貨取引所・coincheck(コインチェック)に対し、金融庁は資金決済法に基づく立ち入り検査を実施しました。

コインチェック経営陣の説明内容を現地で確認しながら、顧客が預け入れた資産の管理体制や財務状況、不正アクセスへの対策等が適正に改善されているか調査するのが目的です。

コインチェックに対してはすでに業務改善命令が出されており、2月13日までに書面で報告することが義務付けられていました。

期限を待たずに金融庁が立ち入り検査を行うのは異例の事態であり、いかに政府が今回のハッキング事件を重く見ているかよく分かります。

金融庁はすでに登録されている以下のような「仮想通貨交換業者16社」、および「みなし仮想通貨交換業者15社」に対して、システムリスク管理態勢に関する報告徴求命令を出しています。

登録されている仮想通貨交換業者16社

  1. マネーパートナーズ
  2. QUOINE
  3. bitFlyer
  4. ビットバンク
  5. SBIバーチャル・カレンシーズ
  6. GMOコイン
  7. ビットトレード
  8. BTCボックス
  9. ビットポイントジャパン
  10. DMM Bitcoin
  11. ビットアルゴ取引所東京
  12. エフ・ティ・ティ
  13. BITOCEAN
  14. フィスコ仮想通貨取引所
  15. Zaif
  16. Xtheta

みなし仮想通貨交換業者15社

  1. みんなのビットコイン
  2. CAMPFIRE
  3. Payward Japan
  4. バイクリメンツ
  5. 東京ゲートウェイ
  6. LastRoots
  7. deBit
  8. エターナルリンク
  9. FSHO
  10. 来夢
  11. ビットステーション
  12. bitExpress
  13. ブルードリームジャパン
  14. ミスターエクスチェンジ
  15. BMEX

ZaifやbitFlyer等の大手仮想通貨取引所も公式サイト上でセキュリティ重視の経営を行っていくことを表明しており、ハッキングの再発確率は着実に低減していると言えるでしょう。

ハッキング被害者の資産は本当に返還されるのか?

今回の事件の一番の悪はネムを盗んだハッカーであり、コインチェック社も被害者側の存在です。

しかし、金融の世界では顧客からの信頼こそが命。

セキュリティをないがしろにしていた経営陣は、責任を問われて当然です。

現在日本円の入金以外のサービスを停止しているコインチェックは、早ければ2月13日より以前に業務再開の可能性もあるとのこと。

いつになったら出金できるのかとやきもきしていたトレーダーにとって久々の朗報です。

一方、東京弁護士会の北周士氏を中心とした5名の弁護団は「コインチェック被害対策弁護団」を結成し、ハッキング被害者らの預入資産返還を巡って集団訴訟に踏み切る模様です。

コインチェック幹部は約460億円分の補償に応じると言っておきながら、その詳細な日程を一切明らかにしていない現状、会社を相手に訴えを起こすのは正当な行動と言えるでしょう。

→コインチェック被害対策弁護団HP

なお、コインチェック側から資金の返還・弁済がある場合には、訴訟を取り下げる可能性もあるとのこと。

裁判費用もタダではありませんし、訴えたからといって100%勝てるという保証もありません。

可能であれば、法廷闘争無しでの穏便な和解が実現してもらいたいものです。

はたして、コインチェックのハッキング被害に遭った投資家の資産は本当に返還されるのでしょうか?

今後想定されるパターンを検証してみましょう。

裁判なしで資産が全額戻ってくるパターン

言うまでもなく、不正流出前に保有していたネムが投資家の元に全て戻ってくるのがベストなパターンです。

しかし、コインチェック側はネムの売買停止時からリリース時までの加重平均価格(1ネム=88.549円)のレートで計算した分の日本円を返金する方針を掲げているので、このままでは事件前から資産が目減りしてしまうことになります。

裁判なしで全額返還パターンが実現されるためには、コインチェックからネムを盗んだハッカー犯が逮捕され、盗まれたネムが全て回収される必要があります。

ネムがコインチェックの元に戻ってくれば、被害者に再分配して万事解決。

めでたしめでたしです。

しかし、現実的に考えてこれは非常に望み薄の展開。

ブロックチェーンを辿って現在のアドレスを追跡することは出来ても、それがどこの国の誰のものなのかまでを特定するのは至難の業。

しかも盗まれたネムはすでに複数の口座に分散されており、一部は別の仮想通貨に交換されたとの報道もあります。

こうなってくると回収自体が困難です。

仮想通貨は一度ハッキングされたらアウトという現実を否応なく意識させられます。

裁判なしで資産が一部戻ってくるパターン

上記のように、コインチェック側はすでに約26万人のハッキング被害者に対して、約460億円分の返金補償方針を表明しています。

ガバナンス体制がガバガバ(笑)なせいで財務整理が追い付いておらず具体的な日程を決定出来ていないようですが、同社は月間取引手数料だけで約400億円もの利益をあげています。

常識的に考えて、このくらいの金額なら返金補償できないはずがありません。慌てることはないでしょう。

ネムの補償レートが安すぎるという不満の声もありますが、ハッキングリスクのある取引所のウォレットに自己資産を置いていた投資家側にも多少の落ち度があります。

痛み分けという事で、このパターンに落ち着くのが一番現実的なのではないでしょうか。

裁判によって資産が戻ってくるパターン

万一コインチェックの関係者が会社の金を私的に使い込んでいたり運転資金等に充当したりして投資家に返金できるだけの自社資産が残っていない場合、これは確実に訴訟に発展します。

弁護団は第一弾訴訟にて、契約に基づき預けていた資産の引き渡しを求める予定。

1ネム=88.549円という安いレートに訂正を求め、事件発生前の価格での返金補償に応じるかどうかが裁判の争点になることでしょう。

ここで問題になるのは、法的責任の所在です。

仮想通貨は中央機関を介すことなくユーザー間で決済を行える点に強みがありますが、それは同時に政府の保護から離れた存在であるという弱点でもあります。利用はすべて自己責任。

投資家を救済するための法整備がほとんど進んでおらず、ハッキング時の補償を確定させる法的根拠が見当たりません。

世界の過去の判例を見ても、ハッキングによって損失を被った投資家が補償を得られるかどうかは全て取引所の裁量次第です。

今回のケースでは、コインチェックが仮想通貨取引所として最低限実装すべきセキュリティシステムを導入していなかったという落ち度があるため、ある程度の賠償責任を問うことは可能でしょう。

満額は難しいかもしれませんが、原告側が勝訴する確率は非常に高いと思われます。

ともあれ、仮想通貨とハッキングは光と影のように表裏一体の関係であり、今後も仮想通貨業界で多くのハッキング関連の裁判が展開されることは想像に難くありません。

日本国内における最初の判例は大いに注目されることでしょう。

資産が全く返還されないパターン

コインチェックがいつまで経っても返金補償に応じず、裁判を起こしても資産返還が実現せず泣き寝入り……という最悪のパターンになってしまう可能性はどのくらいあるでしょうか?

投資家にとって最悪なのは、追い詰められたコインチェックが破産して逃げてしまうことです。

コインチェックの幹部は、今のところ仮想通貨ブームに乗じてこのまま同社の営業を続けたい思惑のようです。

しかし、ここ最近仮想通貨の価格が軒並み暴落しており、バブル崩壊を指摘するアナリストも少なくありません。

それに訴訟沙汰になれば、ネムのハッキング被害額だけでなく、取引停止になっている間に投資家が被った損失や決済システム停止による実店舗の損害額なども請求される可能性があります。

経営陣が「仮想通貨ビジネスはもう終わりだな」と判断したら、このまま破産申請を行ってトンズラする可能性も0ではないのです。

もしもコインチェックが倒産して消滅してしまったら、会社の資産は全て差し押さえ。

国に支払う税金や社員への給料が優先され、投資家の資産は後回しにされます。

コインチェックは信託保全を導入していないため、ハッキング被害者はおろか、一般の顧客の資産もきちんと返還されるかどうか怪しくなってきます。

もちろん退職した経営陣を訴えることは可能ですが、資産を取り返せる保証はありません。

しかし、一部の企業・資産家がコインチェックの買収を計画しているという噂もあり、現実的にこのようなパターンが起きる可能性は極めて低いと言えるでしょう。

あまりにも悪質な逃げ方をすれば、世間から大バッシングされるのは明白。彼らの今後の人生にもかかわるため、社会人として最低限の責務は全うしてくれると期待します。

いずれにせよ、この法廷闘争は判決次第で最高裁までもつれる可能性があり、決着まで数年くらいかかるかもしれません。

今回の騒動での一番の勝ち組は、ハッカーでも投資家でもなく、確実に高額報酬を得られる弁護士さん方なのかもしれません(笑)

仮想通貨と訴訟

コインチェックのハッキング事件が表沙汰になり、関係者に怒りの矛先が向けられていた頃、全く別の人物にも世間の関心が集まっていました。

それは、コインチェックのイメージキャラクターを務めていたお笑い芸人の出川哲郎さんです。

それまで仮想通貨に対してネガティブなイメージを抱いていた方も出川さんのCMを見て、「あの出川の哲ちゃんが宣伝しているサービスなら面白そうだからやってみようかな」と考えを改め、コインチェックに口座開設する切っ掛けにしたことでしょう。

ハッキングによって約580億円分ものネムが不正流出してしまった際、一部の心無いネットユーザーの中には、

「コインチェックで損したのは全部出川のせい!」
「ヤバいよヤバいよ……(コインチェック)」
「出川は責任取れ!」

等と出川さんに対して暴言を吐く人もいました。

はたして、約580億円分ものネムが不正流出してしまった問題で、コインチェックのCMに出演して集客に携わっていた出川哲朗氏が責任を問われる可能性はあるのでしょうか?

結論から言えば、その可能性は限りなく0に近いです。

その理由として、主に以下の3点が挙げられます。

  1. CM出演当時、出川さんはコインチェックのセキュリティ対策不備を認知していなかった。
  2. 出川さんはコインチェックのセキュリティ対策が万全であるという虚偽の宣伝を行ってはいない。
  3. コインチェックを利用すれば確実に儲けられるという誤解を生むような詐欺的広告に加担していない。

たとえ出川さんを切っ掛けにコインチェックを利用するようになったとしても、それは視聴者の自己責任であって出川さんのせいではありません。出川さんを批判するのはお門違いです。

ただし、コインチェック裁判を切っ掛けに、今後仮想通貨関連の裁判が急増する可能性は高いと見ています。

特に注目すべきは、詐欺の温床と化しているICOの分野です。独自トークン発行によって資金を調達するICOでは、調達側が投資家に資金を返還する義務などが一切なく、詐欺団体に金銭を持ち逃げされてしまう危険性があります。

つい最近も農業系ベンチャーがICO後の画面上に「ち〇こ」と書き残して失踪した事件があり、名前を勝手に使われた関係者が訴訟を検討しています。

これからは、詐欺まがいのICOを展開している団体およびその宣伝広告に協力している有名人も訴訟の対象になっていく可能性があります。

過去には、詐欺商法を展開していた企業の広告に宣伝文を掲載していた芸能人に損害賠償責任が認められた判例もあり、

「知らなかった」
「頼まれたから協力しただけ」

といった言い訳は法律の世界では一切通用しません。

先日業務停止命令を受けたアメリカのAriseBank(アライズバンク)も、1997年にマイク・タイソンと対戦して耳を噛みちぎられたことで知られるプロボクサー・Evander Holyfield(イベンダー・ホリフィールド)氏を起用したキャンペーンで6億ドル(およそ650億円)もの資金を調達した詐欺的ICOの筆頭。

ホリフィールド氏はこの件に関してノーコメントを貫いていますが、社会的信頼を大きく落とす切っ掛けとなってしまいました。

あえて名前は出しませんが、最近では某美形タレントさんや某スポーツ選手等の有名人も怪しげな仮想通貨ビジネスに手を出そうとしており、一ファンとしてとても危惧を覚えます。

まとめ

2月1日には、韓国の釜山鎮区で20歳の大学生が仮想通貨取引の損失苦の果てに自ら命を絶つという痛ましい事件が発生してしまいました。

今や仮想通貨価格の暴落で大損した多くのトレーダーが悩み、苦しみ、怒りを向ける矛先を探しており、これからは「絶対儲かる」等と称して仮想通貨取引の宣伝を行ってきた悪質な勧誘者が訴えられていく可能性があります。

大手SNS・Facebookが誤解を招きやすい文言の目立つ仮想通貨関連の広告を禁止したように、現在の仮想通貨業界はあまりにも無秩序で詐欺的手法が横行しています。

これ以上不正な手法によって傷つく投資家が増えないよう、仮想通貨市場を健全化する法整備が進むことを願わずにいられません。

著者情報
投資歴10年。日本株・米国株投資、FX、仮想通貨、不動産、インデックスファンド、なんでも手広く投資中。普段はコツコツ、鉄火場や期待値の高い相場の時だけ大きく張るの…

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