出典:kryptomoney
仮想通貨取引を行う上で覚えておいた方が良い専門用語がたくさんあります。その中の一つとして、「ハードフォーク(Hardfork)」を外すことは出来ないでしょう。
2017年12月28日(日本時間2017年12月29日未明)に、かねてから注目されていたビットコインのハードフォークがスタートし、新たな仮想通貨Bitcoin Segwit2x(セグウィットツーエックス:S2X)が誕生する模様です。ビットコインのブロックサイズを1メガバイトから4メガバイトに拡張・ブロック生成速度を10分から2.5分に短縮する等、従来のビットコインの欠点をカバーする仕様となっています。
しかし、今回のハードフォークは11月にSegwit2Xプロジェクトを主導していた以前のメンバーとは別団体が実施したものであり、関係者の間ではSegwit2Xの信用性を巡って大規模な議論が巻き起こっています。Segwit2Xの取扱いを事前告知していた取引所ですら、今回の一件を詳細に調査中とのことです。
出典:Segwit2X
ハードフォークとは一体何なのか?なぜ仮想通貨が分裂するのか?そして相場にどのような影響を与えるのか?今後も同じような現象が起きることはあるのか?
仮想通貨ビギナーが気にしている疑問について、出来るだけわかりやすく簡潔に解説していきます。ぜひ参考してください。
ソフトフォークとハードフォーク
出典:mbnsolutions
ハードフォークを理解するためには、まず仮想通貨の基本的な構造から把握する必要があります。
仮想通貨には、誕生してから現在に至るまでに行われた全ての取引データが記録された「ブロックチェーン」と呼ばれる帳簿のようなものが存在します。情報の塊(ブロック)が鎖(チェーン)のように連なっており、データの改ざん等の不正がないかその都度チェックしながらユーザー同士で共有できる優れた性能を備えています。
仮想通貨はどこかの国が発行している貨幣ではなく、P2P(Peer to Peer;中央サーバを介することなく個々の端末同士で通信を行う方式)の電子マネー決済システムのプログラムです。したがって、世界のエンジニア集団が利用者のニーズに応じてシステム全体の改良を行っています。
その際、ブロックチェーンをどのように扱うかによって以下の2種類の仕様変更方法に分かれます。
- 全てのブロックチェーンを丸ごと書き換える
- 新しいブロックチェーンを途中から派生させる
前者のフォーク(分岐)を「ソフトフォーク」、後者のフォークを「ハードフォーク」と呼びます。
身近なもので例えると、ソフトフォークはオンラインゲームアプリの新サービス実装アップデートのようにデータを上書き処理するような更新作業です。旧バージョンは統合され、以後扱われなくなります。
一方ハードフォークは、「バイオハザード」と「バイオハザード2」が同じシリーズでも別のゲーム作品であるように、異なるソフトウェアを新たにリリースするような更新作業です。ハードフォーク後、2種類のプログラムが共に残り続けることになります。
フォークの種類
出典:steemit
実はブロックチェーンのフォーク(分岐)自体は仮想通貨取引において日常的に起きている現象であり、それほど珍しい事ではありません。フォークが起きるとその後に何が起きるのか、ソフトフォークとハードフォークの違いを具体的に見ていきましょう。
- 一時的な分岐
ネットワーク上で膨大な量の仮想通貨取引が行われていると、偶発的にブロックチェーンの複数のブロックが同時に生成される現象が起こり得ます。この場合、「最も長いブロックチェーンを正当なものとする」というルールにのっとり、短い方の分岐ブロックは無効化されます。これは仮想通貨の構造上日常的に発生するフォークであり、特に大きな問題が起きることもなくそのまま取引が継続されます。 - バージョンアップ(ソフトフォーク)
仮想通貨はオープンソースのソフトウェアです。Windows等のOSがupdate・upgradeによって脆弱性を解消したり新機能を実装したりするように、仮想通貨もバージョンアップによって性能を向上させることができます。この場合、フォークによってその仮想通貨の仕様を更新する際に事前に関係者間で合意を得ます。そして古いバージョンの仮想通貨は収束し、ニューバージョンだけが市場に残ります。 - 仮想通貨の分裂(ハードフォーク)
基本的に仮想通貨には管理をつかさどる単一の中央組織が存在しないため、コミュニティ同士の利害の不一致によりバージョンアップのプランがまとまらないことがあります。この場合、強行されたフォークによって既存のブロックチェーンをベースとした新しいブロックチェーンが作られ、別種の仮想通貨が誕生することになります。一本の鎖で繋がっていたブロックチェーンが途中から完全に分岐するので、その後も両方の仮想通貨が併存し続けます。仮想通貨の中心的存在であるビットコインがハードフォークによって分岐し、ビットコインキャッシュという新たな仮想通貨が誕生した時は世界中で話題になったものです。両者に互換性はありません。これは例えるなら宗教の分派のようなもの。世界最大の宗教であるキリスト教は、西方教会のローマ・カトリック系やプロテスタント、東方教会の正教会など、長い歴史の中で幾多もの教派に分岐しながら発展を続けてきました。
それと同じように、参加する大衆の思想によって仮想通貨も独自の体系に枝分かれしながら市場に普及していくのです。存続が困難になれば将来的に一本化される展開もあり得ますが、一般的には両者は別個のシステムとして恒久的に取り扱われていきます。
ビットコインのソフトフォーク・ハードフォークの歴史まとめ
2016年7月に行われたイーサリアムのハードフォークによって「イーサリアムクラシック」が誕生したように、ハードフォークによって仮想通貨の新種が世界中で誕生しています。最近ではビットコインのハードフォークが呆れるほど頻発しているので、ここらで過去の出来事を軽くまとめておきましょう。
- 2010年8月、システムの脆弱性を突き、発行予定数を超えるほど大量のビットコイン(1,840億BTC)が偽造されてしまう事件が発生。ソフトフォークにより修正される。
- 2013年3月、バージョン0.8.0のバグにより最長ブロックチェーンの分岐が発生。人為的なものではないため解釈が難しいが、ビットコインの最初のハードフォークという意見もある。
- 2017年8月、データ量の増大により処理速度が大幅に遅延してしまう問題(スケーラビリティ問題)を巡り、データを圧縮して対処するアップデート・Segwitを提案していたBitcoinCoreというグループと、ブロックチェーンのサイズそのものを大きくすべきだと主張する大手マイニング集団が対立。Segwit反対派がBitcoin unlimitedを立ち上げ、ハードフォークを敢行。1ブロック1メガバイトだったビットコインから、1ブロック8メガバイトの「ビットコインキャッシュ」が誕生した。
- 2017年8月下旬頃、BitcoinCoreがSegregated Witness(Segwit)を追加するソフトフォークを実施した。
- 2017年10月、マイニングをより簡単かつ平等に行えるようにするために、香港のマイニンググループLightningASICが主導してハードフォークを実施。マイニング性に長けた「ビットコインゴールド」が誕生した。
- 2017年11月、ビットコインの供給上限(2,100万枚)の10倍にあたる2億1,000万枚の供給を可能とする「ビットコインダイヤモンド」が誕生した。しかし、どこの団体が何の目的でビットコインのハードフォークを行ったのか不明なため、多くの取引所は取扱いに慎重な姿勢を見せている。
- 2017年12月、中国人の起業家らのグループが主導してビットコインのハードフォークを実施。スマートコントラクト・ライトニングネットワーク・匿名性など、ビットコインに不足していた性能を付加した「スーパービットコイン」が誕生した。その他、処理速度の速さが売りの「ライトニングビットコイン」、総発行枚数2.1兆枚の「ビットコインX」、プルーフオブステーク(仮想通貨の保有量に応じてブロックチェーン作成の権利を与えるシステム)を採用した「ビットコインゴッド」が誕生した。
ハードフォークは投資家にとって吉か凶か?
私たち投資家にとって一番大切なのは、「ハードフォークによって仮想通貨の価格がどう変化するのか?」という点です。どこの馬の骨とも分からない団体が勝手に行ったハードフォークのせいで、自分の所有している仮想通貨の価格が暴落でもしたら大変です。ハードフォークが相場にもたらす影響を好材料・悪材料の視点からチェックしていきましょう。
メリット
ハードフォークによって新仮想通貨が誕生する際、既存のトークンを所有している方に新規トークンを無料で分配する「エアードロップ(Airdrop)」というサービスが適用されることがあります。労せずして将来性の高い資産を手にすることのできる魅力があり、投資家にとって非常にお得です。そのため、ハードフォークの予定が発表されると、その仮想通貨に買い注文が殺到して値上がり材料になります。
デメリット
ハードフォークによって生まれる新仮想通貨は、概して既存のトークンより性能が優れています。そのため、分裂するコミュニティ側に資金が移動して既存仮想通貨の価格の下落要因になってしまうリスクがあります。
ここで注意しなければならないのは、ハードフォークが予定されている仮想通貨を購入したからといって必ずしも新規トークンが分配されるとは限らないという事です。
最近は一種のハードフォークブームになっており、何が目的なのかよく分からない不気味な仮想通貨が次々と生まれてきています。
本日実施されたSegwit2xも、もともと主導していたのは元ビットコインコア開発者のJeff Garzik氏を筆頭に、Digital Currency GroupやCoinbase、Bitpayといった開発者・取引所の主要ビジネスメンバーで組閣されたチームでした。(ニューヨーク合意)コミュニティ内で十分な同意が得られなかったという理由で、11月に予定されていたものが延期されました。
しかし、現在ハードフォークが行われているSegwit2xの公式サイトに掲載されているメンバーのJaap Terlouw氏、Donna Khyuz氏、Robert Szabo氏らは、元々の開発メンバーとは何の関係も無い人たち。経歴にも怪しい点が多く、話題に便乗して投資家を騙しているだけではないかという説もあります。本当にハードフォークは成功するのか、ビットコイン所有者に1対1の割合で新規トークンが付与されるのか、いまいちはっきりしない状況です。
出典:Segwit2X
そのせいで、ハードフォークの予告を聞くたびに「またかよ!」とあきれるトレーダーが増えてきています。いいかげんな仮想通貨を取り扱うと会社の信用にかかわるため、取引所側も導入に慎重な姿勢を取らざるを得ません。
- リプレイアタック(分岐後に両方のブロックチェーンで同じ送金処理が有効になってしまう脆弱性を突いて資産を盗み出す不正攻撃)への対策は十分か
- 継続的なマイニングを確保できるか
- 顧客の資産を脅かすようなリスクが含まれていないか
などの要件を確認し、金融庁から正式に許可が下りるまで待たなければなりません。脆弱性があると判断されれば取扱いが見送られる可能性もあるため、最近ではハードフォークのニュースが流れても大して市場が反応しなくなりつつあります。
今後分岐が予定されている仮想通貨
2017年12月29日現在、ビットコインだけでもまだ数種類のハードフォークが予定されています。
- 2017年12月内に誕生予定のビットコインシルバー(Bitcoin Silver)
- 2017年12月31日誕生予定のビットコインウラン(Bitcoin Uranium)
- 2018年1月誕生予定のビットコインキャッシュプラス(Bitcoin Cash Plus)
なお、最近のハードフォーク予告の中にはフェイクニュースもあるようです。
12月10日にハードフォークを実施する予定だったビットコインプラチナム(Bitcoin Platinum)の件は、あろうことか韓国の高校生のイタズラであった可能性が浮上し、関係者は騒然としています。京畿科学高という学校に通う허이섭(ホ・イソプ)氏は、ビットコインプラチナムのデマを流して空売りを仕掛け、およそ500万ウォン(約52万2,000円)もの収益を得たと伝えられています。
ビットコインプラチナは詐欺と判明【フィスコ・ビットコインニュース】
出典:MONEY VOICE
公式サイトはこの騒動を謝罪し、「ビットコインプラチナムは詐欺ではない」との声明文を掲載。しかし、以前からハードフォークの予定日を何度も延期していて疑わしい存在だったこともあり、私たち投資家の立場からは何が本当で何が嘘なのかさっぱり分からない状況が続いています。
ちなみにビットコインキャッシュプラスの公式サイトもビットコインのホームページをほとんどそのままコピペしただけの構成になっており、関係者の間で非常に怪しまれています。
まとめ
管理する中央組織が存在しないのが仮想通貨の長所ですが、それは同時に短所にもなり得ます。誰が書いたか分からないようなネットの情報に多くの投資家が踊らされているのが今の仮想通貨業界の実態。おそらく、仮想通貨の全貌を正確に把握している人間はこの世に一人もいないのではないでしょうか。これは詐欺の温床になりかねない危険な状態です。
起業家にとって近年の仮想通貨ブームは最高のビジネスチャンスであり、ハードフォークを利用して仮想通貨の実権を握りたいという思惑は十分に理解できます。しかし、誰が何を目指して作ったのかさっぱり分からない仮想通貨の存在はやはり不気味です。デマを流して短期的な利ザヤを狙っている可能性もあり、こうした乱立が続くと仮想通貨業界全体の信用性がますます薄れていくでしょう。
今後も詐欺ニュースを利用して相場操縦しようとたくらむ不届き者が続出する可能性があります。公開されるハードフォークの情報が真実なのかどうか、私たち投資家には確認のしようがありません。ハードフォークの予定ニュースには安易に飛びつかず、十分に警戒しながら相場の値動きを観察した方が賢明です。