2018年1月16日、これまで170万円付近を軟調に推移していたビットコイン/円(BTC/JPY)のレートが急落しました。わずか数時間のうちに130万円台に到達し、その下げ幅は2017年12月に付けた220万円台からおよそ40%の下落です。
そして厄介なことに、アルトコインの価格の方も軒並み暴落しています。2018年1月に一時400円付近まで高騰したリップルも130円台まで急落し、日足にしておよそ30%の暴落を見せました。
2017年12月下旬にBTC/JPYが約30%暴落した時は迷わず押し目のチャンスだと判断しましたが、今回の暴落は前回とは若干意味合いが異なります。最悪、仮想通貨バブルの「終わりの始まり」になる可能性もあり、しばらく様子見したい状況です。
仮想通貨の価格が軒並み下落している理由
前回、2017年12月下旬頃に発生した仮想通貨相場の下落は、年末の利益確定売り、北朝鮮のハッキング、coinbaseのインサイダー取引疑惑、ビットコイン先物の空売りなど、様々な悪材料が重なったことに起因しました。これらの原因は短期的な不安要素に過ぎず、すぐに反発が入るのは予想できていました。
しかし、現在の仮想通貨相場の軟調はもっと永続的な問題に起因しており、今後の値動きが非常に予想しづらいです。投資家心理を悪化させている主な3つの要因をまとめてみましょう。
世界中で仮想通貨への規制が強まっている
中国
かつて中国は仮想通貨取引市場の中心的存在でしたが、2017年9月に政府がICOを法的に禁止し、仮想通貨取引所を閉鎖に追い込みました。2018年1月現在でも中国国内での仮想通貨取引は禁止されており、中国の実業家は香港などを拠点に仮想通貨ビジネスを展開しています。
中国当局は最近になってさらに仮想通貨への規制強化を進めており、次は「マイニング事業」が標的にされています。マシンをフル稼働させて仮想通貨取引に係る演算処理を行うマイニングのせいで、中国国内で膨大な電力消費が問題視されるようになりました。政府もこの事態を無視するわけにはいかず、マイニング市場を取り締まる法案制定に動いています。
中国国内の大手マイニング団体は「秩序ある撤退」を決め、カナダや東南アジアなど他の地域への移転を進めています。今後の事業計画についても大幅な変更を余儀なくされており、中国マイニング大手のViaBTCもマーケットサービスを閉鎖すると発表し話題になりました。
もしも世界の約70%のビットコインを採掘している中国がマイニングから撤退してしまったら、ハッシュレートの維持が難しくなり、ビットコインのPoW(プルーフ・オブ・ワーク)システムそのものが崩壊する可能性も出てきます。
韓国
今や国民の3人に1人が仮想通貨取引に携わっていると言われるほど仮想通貨取引にのめり込んでいる韓国。「ビットコインを買えば金持ちになれる」と本気で信じ込んでいる若者達が仮想通貨に多額の資金を投じている状況に政府も危機感を募らせており、国内の取引所閉鎖を含めた規制強化を進めています。
そのニュースを聞いた韓国の若者たちは、ただちに反政府デモを開始。20万人規模の参加者が仮想通貨取引の継続を訴えており、今後の政府の方針によっては韓国国内で仮想通貨を巡る大暴動が発生する可能性もあります。
イスラム圏
エジプトやイランなどのイスラム圏では、仮想通貨取引を禁止する動きが強まっています。イスラムの教えではギャンブル行為がご法度であり、極めて投機性の高い仮想通貨取引を公的に認めるわけにはいかないという考えのようです。
インドネシアの中央銀行も、「ビットコインを含む仮想通貨を決済手段として認めない」という姿勢を表明。ISのテロリストメンバーが仮想通貨を使って資金を調達していたことから仮想通貨への警戒感を強めており、近い将来正式に仮想通貨取引が禁止される可能性が高いです。
もちろん、全ての中東の国家が仮想通貨を敵視しているわけではありません。しかし、世界の富豪が集うイスラム圏からの資金が入ってこなくなれば、仮想通貨市場の成長が鈍化するのは避けられないでしょう。
欧州
2018年1月16日にドイツのフランクフルトで開催された金融イベントにて、ドイツ連邦銀行の取締役・Joachim Wuermeling氏が「国際的なレベルで仮想通貨を規制する必要がある」と発言し話題となりました。
単一国家による規制の効果は限定的であり、国を越えた協力が不可欠だと主張するJoachim Wuermeling氏の意見は、マネーロンダリングに仮想通貨が悪用されることに対して警戒を強めているEU各国の首脳陣に強い影響を与える可能性があります。
ないとは思いますが、万が一EU全土で仮想通貨が禁止されるようなことになれば、業界に激震が走るでしょう。
仮想通貨の技術的な問題の解決の見通しが立たない
仮想通貨は既存の電子マネー決済の安全性・利便性を大幅に向上させる技術であり、将来的にあらゆる金融業界で採用されていく可能性が高いです。しかし、現時点ではまだまだ発展途上の分野であり、実用段階において懸念される問題をいくつも抱えています。
- スケーラビリティ問題(送金処理遅延・手数料高騰)
- マイニングに伴う膨大な消費電力問題
- 手続きが複雑、送金ミスを訂正できない等のユーザビリティの問題
特にトランザクション処理の問題は深刻です。もはやビットコインを決済ツールとして見限っているユーザーが急増しており、セキュリティリスクの残るライトニングネットワークの導入についても多くのエンジニアが反対してまとまりがつかない状況です。オープンソースプロトコルの開発は大衆の意見を反映しやすい反面、場を仕切る中央機関が存在しないせいで結論が出るまで無駄に時間がかかってしまうのが難点です。
ただでさえ価格が不安定すぎて決済手段の導入を控える企業が多い中、このままずるずると解決が先送りされればますます仮想通貨の信用性が低迷していくことでしょう。
市場参加者が「現実」を見始めた
クレディ・スイス証券株式会社のアナリストの研究により、「ビットコインの97%はわずか4%のアドレスに集中している」ことが判明しました。つまり、一部の資産家がビットコインを独占し、残りのわずかな部分だけをその他大勢の投資家が奪い合っているため、価格が異常に急騰しているのです。
これは株式市場でよく見られる「仕手相場」の状態です。仮想通貨業界全体の時価総額がほとんど変化していないのに価格だけが急騰するのは、一部の投資家が騙し上げを行っているからに他なりません。一日で40倍もの値上がりを見せたビットコインダイヤモンド相場がまさにその典型例です。
上昇トレンドが続いているうちは仕手側も決して資産を手放しませんが、これ以上の値上がり余地が無いと判断した瞬間、仕手側はあっさり投資ゲームを終了します。その瞬間、人為的に釣り上げられたレートはあっという間に崩壊します。
仮想通貨取引をしている投資家に「なぜあなたは仮想通貨を買うのですか?」と聞いたら、多くの投資家は「値上がりしているから」と答えるでしょう。ほとんどの市場参加者は仮想通貨の「技術」ではなく「投資性」だけを見て金儲けのために買っているため、高騰しすぎて値上がりしなくなれば後は手放されていくだけです。
仮想通貨の買いを煽っているのはほとんど個人投資家で、プロが集うビットコイン先物市場では機関投資家のシビアな売りが増えています。米証券取引委員会(SEC)に申請されていたビットコインETFも取り下げが相次いでおり、今日の暴落も先物市場のオーダーが少なからず影響しているかもしれません。
チャート分析による展望
月足チャートのローソク足には非常に大きな上ヒゲが出ており、上値への警戒感がありありと見て取れます。
週足チャートでは、終値ベースの5日SMAが始値ベースの5日SMAに対してデッドクロス。MACDやパラボリックSARもトレンド反転の前兆を示唆しており、嫌な印象を受けます。
どんな相場でも急落した後には安値買いの注文が入り、自律反発が起こります。しかし、その反発が小規模で終わり、投資家に失望感を与えてしまった時はかなりヤバいです。さらなる失望売りや損切り注文が殺到し、下落トレンドに拍車がかかる可能性があります。
相場の買い意欲自体は継続しているので、目先は日足ボリンジャーバンド-3σの120~130万円、週足ボリンジャーバンドセンターラインの100万円、月足12日EMAの70~80万円辺りのレートを意識したいところです。
まとめ
ブロックチェーンに代表される仮想通貨のテクノロジーが将来的に広く金融業界に浸透していくことは間違いありませんが、高騰・暴落を繰り返す相場は極めて未成熟であり何が起きるか分からない危うさを秘めています。
この暴落が一時的に終わるのか、それとも仮想通貨バブルの終わりの始まりになるのか、その鍵を握るのはやはり世界各国の仮想通貨規制の動向にかかっているでしょう。
余談ですが、取引所閉鎖を示唆する韓国のパク・サンギ法務部長官とそれに反発する若者達の姿を見ていて、私は「島原の乱」を思い出しました。
出典:おらしょ
江戸時代、貧困に苦しむ農民たちの救いとなっていたキリスト教は、幕府の統治を脅かす存在でもありました。禁教令や鎖国が進められ、遂にはキリスト教徒や農民達によって組閣された一揆軍と幕府が衝突する「島原の乱」によって、多くの血が流れる最悪の事態に発展してしまいました。
自国の資産が投機マネーとして流出することを警戒する韓国政府と、仮想通貨取引に夢を抱く若者達との対立の構図は、島原の乱と酷似しています。もしも韓国国内で仮想通貨を巡る武力衝突事件が発生すれば、まさに「現代の島原の乱」と言えるでしょう。
小規模なコミュニティ内で参加者同士が資産を出し合い、より派閥を盛り上げようと決起している仮想通貨のビジネスモデルは、もともとどこか宗教的です。「自由」や「独立」を標榜する巨大化した宗派が政府によって弾圧されるのは歴史の常であり、遅かれ早かれ当局が仮想通貨取引に何らかの規制を加えるのは避けられない事なのかもしれません。
各国の金融政策は、もはや一トレーダーがどうこう言える次元の問題ではありません。こればかりは、固唾をのんで展開を見守るのみです。