2018年2月9日、世界中の仮想通貨トレーダーが「またかよ!」と言いたくなるような大事件が今度は欧州で起きてしまいました。
イタリアの仮想通貨取引所・BitGrail(ビットグレイル)から、およそ1,700万枚のNano(XRB)が不正に引き出されてしまいました。当時のNanoのレートは約11ドルだったため、被害総額はおよそ200億円と試算されます。
約580億円分のネム(XEM)が不正流出したcoincheck(コインチェック)と比べればまだマシな方ですが、それでも目が飛び出そうな金額であることに変わりはありません。
一体なぜこれほど仮想通貨取引所のハッキングが世界的に続出しているのでしょうか。事件の経緯と考察をまとめてみました。
ビットグレイルのNano流出事件について
ビットグレイルから約200億円分のNanoが不正に出金された経緯およびその後の対応を時系列順にまとめてみましょう。
- 2018年2月8日(日本時間2月9日)頃、ビットグレイルのシステム上で何らかの異常が感知され、公式ツイッターが
「XRBのマーケットは現在利用できません。」
と発表。
XRB Markets currently unavailable.
— BitGrail Exchange (@BitGrail) 2018年2月8日
- 2018年2月9日(日本時間2月10日の未明)に、不正な取引によっておよそ1,700万枚のNanoが引き出されてしまったことをビットグレイルが自社ホームページ上で認める。並びに、経営者のFrancesco “The Bomber” Firano(フランシスコ・フィラーノ)氏も事件に関してツイッター上で謝罪。Nanoチームに連絡を行う。
「BitGrailの利用者ならびに我々のプラットフォーム上で発生したNanoの不正出金事件に巻き込まれた全ての方々に心からお詫び申し上げます。」
We do offer our full and sincerest apologies to our customers and to whom has been involved into the illegal transfers of Nano occurred on our platform.
— Francesco The Bomber (@bomberfrancy) 2018年2月9日
- 他の仮想通貨には影響が無いこと、ユーザー保護のため出金や取引サービスを一時停止すること、事件を警察に届け出たこと等の報告も行う。
投資家を混乱させないよう「ハッキング」という言葉を意図的に避けているようですが、おそらくコインチェックの事件と同様、第三者がシステムにハッキングしてNanoを不正に引き出したものと見られます。
コインチェックの被害については下の記事を参考にしてください。
コインチェックで約600億円分のXEMが不正出金され市場が大パニックに!マウントゴックス事件を超える仮想通貨業界最悪事件の詳細まとめ!
関係者はシステムのシャットダウンや警察・各省庁への連絡等、現時点で可能な対策をすでに実施している模様。今後続報が入り次第、公式サイト上に掲載していくとのことです。
Nano(XRB)について
ビットコインやイーサリアム等のメジャーな仮想通貨に比べると知名度こそ低いですが、Nanoは仮想通貨トレーダーの間でかなり人気のある存在です。CoinMarketCapによると、Nanoの時価総額はランキング23位につけています。
Nanoは、Raiblocks(ライブロックス)という仮想通貨を改名して作られた仮想通貨。DAG(Directed Acyclic Graph:有向非巡回グラフ。取引データが直線状に連なるブロックチェーンと違い、複数のデータが糸のように多面的に連結する仕様)というアルゴリズムを採用しており、多数のマイナーを確保することなく多くのトランザクションを処理できる性能を有しています。
ユーザーにとって、
- 送金手数料が無料
- 送金処理が圧倒的に早い
- 将来性の高い仮想通貨
というメリットがあり、従来の仮想通貨にとってかわる「新時代の仮想通貨」として注目されています。
2018年2月には香港の仮想通貨取引所・Binance(バイナンス)に上場。2018年1月につけた30ドル以上の最高値に比べれば最近のレートは落ちてきていますが、投資家からの人気投票で1位を獲得したこともあり、大いに将来性に期待されています。
ちなみにNanoを取り扱っている仮想通貨取引所は世界でも
- Binance
- KuCoin(クーコイン)
- ビットグレイル
などわずかしか存在していません。今回ビットグレイルが狙われたのも、将来性に長けたNanoを取り扱っている取引所だったからかもしれません。
また、Nanoがライブロックスから改名されて日が浅い時期を狙ってハッキングしたのは、世間の注目度が高いうちにやればより多くの利益を上げられると計算した可能性もあります。
関係者の反応
今回盗まれたNanoは、発行枚数全体のおよそ13%にものぼる数量です。これはとても無視できる割合ではなく、Nanoを取り扱っているバイナンスのCEOのChangpeng Zhao(通称CZ)氏もNanoの開発チームと協力して事態解決に向けて全力で協力することを表明しています。
We are in contact with Nano team (re: Bitgrail) and will freeze deposits from identified addresses as we receive them. This is one reason we require coin CEO/founder to submit listing requests. Binance will assist where we can. We need to work together to protect users.
— CZ (@cz_binance) 2018年2月10日
まだ事件の具体的な原因は判明していませんが、Nanoチームの調査によると、仮想通貨Nanoの脆弱性ではなくビットグレイルの取引システムに問題があった可能性が高いとのことです。コインチェックの時と同様、仮想通貨取引所側の責任であり、Nanoチームはハードフォークによる救済を行う予定はないとコメントしています。
The Nano Core Team's Statement on BitGrail's Insolvency:https://t.co/yZuddrb3wb
— Nano (@nanocurrency) 2018年2月9日
当のビットグレイル側は、現在400万Nano(およそ50億円)しか手元に無いため、被害者全員に補償することは無理だと釈明。それどころか、事態解決に向けて協力してくれないNano開発チームを公然と批判しており、両陣営で口論が始まる始末です。
コインチェックもこれほどの醜態を見せることはなかったため呆れるより他ありません。このままビットグレイルが破産申請する可能性もあるとのことです。
NANO on BitGrail have been stolen.
Unfortunately there is no way to give it back to you at 100% (we only got 4 MLN XRN right now).
The devs, as you have guessed, dont want to collaborate
— Francesco The Bomber (@bomberfrancy) 2018年2月9日
In the wake of the unfounded accusations made against me by the dev team and of the dissemination of private conversations that compromise police investigations, Bitgrail s.r.l. is forced to contact the police in order to protect its rights and users
— Francesco The Bomber (@bomberfrancy) 2018年2月10日
市場ではビットグレイルのニュースが流れた後、パニック売りが殺到して一気に9ドルを割り込む寸前まで下落する局面が見られました。その後は徐々に落ち着きを取り戻していますが、10ドル付近を軟調に推移しています。
海外のネットユーザーの間では、「今回の事件で資産を喪失した投資家はビットグレイルに対して集団訴訟を起こすべきだ」との声が上がっています。すでに多くのネットユーザーがこの運動に賛同しており、まるで日本のコインチェック事件を彷彿とさせるような様相を呈しています。
まとめ
実はビットグレイルは以前からハッカーに狙われていた節があり、2段階認証を設定していなかったアカウントから不正に資金を引き出される事件が続出していたそうです。やはり今回の不正流出事件も、結局は仮想通貨ではなく取引所側の問題ということで決着しそうです。
世界各国の仮想通貨取引所でハッキングが続出している一番の原因は、多くの取引所が空前の仮想通貨ブームに便乗することを焦り、セキュリティシステムをないがしろにしているせいです。
- 強固なセキュリティを維持するためにはそれなりの費用がかかるため対策を後回しにしている
- 儲からないセキュリティ対策に投資すると経費がかさむ
- 顧客から高額な手数料を徴収せざるを得なくなる
- 客足が遠のくおそれがある。
他の仮想通貨への影響は限定的と見られていますが、投資家心理の悪化につながる可能性は否めません。さすがに2018年になってから短期間でこれだけ大規模な仮想通貨ハッキング事件が続出すれば、どうしても業界全体への不信感が高まってしまいます。
くれぐれも自己資産を仮想通貨取引所に放置することはやめましょう。少しでもハッキングリスクを低減させるためには、当面自分のハードウェアウォレットで仮想通貨を自己管理するしか手はなさそうです。