出典:DMMマイニングファーム
2018年2月9日、大手ITベンチャー企業の株式会社DMM.comが、石川県金沢市に設立した仮想通貨マイニングファームの運営を開始しました。かねてから予定されていた大規模なマイニングファームのオープンとあって、早くも関係者の間で話題沸騰中です。その特徴をまとめてみましょう。
DMMの仮想通貨事業の経緯
DMMは2017年9月7日に仮想通貨事業への参入を発表し、翌9月8日に仮想通貨事業部を発足しました。具体的には、以下の事業計画を公開しました。
- 仮想通貨ネットワークの維持に貢献するマイニング施設「DMMマイニングファーム」の運営。2018年度中にトップ10に入り、将来的には世界のトップ3に入る規模を目指す。
- 複数のインターネットユーザーが連携してマイニングに参加できるマイニングプール「DMM POOL」を提供。
- マイニング設備の確保が難しい方でもマイニング事業に出資して配当を得られる「クラウドマイニングサービス」を開始。
2018年1月4日には、仮想通貨のマイニングに用いるマイニングマシンの研究・開発を行うチーム「DMMマイニングラボ」を新設。一台当たりのマイニングマシンのハッシュパワー(マイニングに必要な「ハッシュ」と呼ばれる計算を1秒間に何回演算できるかを示すマシンの計算能力数値)を高めるために、様々な技術の組み合わせを試す実験を行っています。
2018年1月11日には、仮想通貨取引所・DMM Bitcoinをリリース。イーサリアム、ネム、リップル等の様々なアルトコインのレバレッジ取引が可能な取引所ということもあって、オープン当初から関係者の関心を集めました。
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GMOやSBI等の大手フィンテックグループも続々と仮想通貨業界に参入し、クラウドマイニング事業やマイニングボードの販売、新規仮想通貨取引所の開設などに着手している中、DMMもライバル企業に負けじと多角的な経営戦略を積極的に展開しています。
今回オープンした金沢のマイニングファームもその一つ。仮想通貨取引所だけでなくマイニングにも簡単に参加できるようになれば、DMMユーザーの利便性がさらに向上すること間違いなしです。
DMMマイニングファームの概要
出典:itmedia
- 所在地:石川県金沢市
- マシンフロア延床面積:約500㎡(約150坪)
- 建物規模:地上2階層構造(1階部分:事務所、マシンフロア 2階部分:事務所)
- 構造:鉄骨造
DMMマイニングファームのメリット1:圧倒的なマシンパワー!
出典:itmedia
DMMマイニングファームには、オンラインゲームやデジタルコンテンツ配信などDMMが長年の事業展開の中で培ってきたサーバ運用のノウハウが惜しみなく導入されています。
マイニングファームの事業規模を確認する上で大切なのが、「ハッシュパワー」と「電気代」という2つの指標です。ハッシュパワーが低すぎるとマイニング効率が悪いですし、電気代を食いすぎるといくらマイニング報酬を得られても経費がかさんで事業として成り立ちません。
その点、DMMマイニングファームに導入されているコンピュータは一台あたり、ASICマシンで650MH/s(メガハッシュ/秒)、GPUマシンは300MH/s弱ほどのスペックを誇っています。消費電力は、ASICマシンで750W、GPUマシンは1900〜2000W前後です。
この数値はマイニングファームの中ではかなり良い方で、すでに接続先のマイニングプール内ではマイニング成績が上位にランクインしているそうです。今後最適化を行っていけば、さらにハッシュパワーと電気代のバランスを向上させることも可能とのこと。
上記の通り、DMMは社内にマイニングラボを設立して効率性を重視した自社オリジナルのマイニングマシンの開発にも尽力しているほど強力なインフラを持っています。稼働マシンは1000台規模!マイニング研究を専門に扱っているチームがバックにいることは、マイニング事業にとってこの上ない武器になります。
DMMマイニングファームのメリット2:分散マイニング!
DMMマイニングファームは、ビットコインだけでなくライトコインやイーサリアムなど様々な種類の仮想通貨をマイニングしています。ASICマシンではライトコインを、GPUマシンではイーサリアムを主にマイニングしており、全体のバランスを計算しながら作業を進めています。
その最大の理由は、リスクの分散です。圧倒的なシェアを誇っていたビットコインも徐々に人気が低迷してきており、業界2位のイーサリアムに時価総額で抜かれるのは時間の問題との声も少なくありません。
できるだけ広範囲の仮想通貨のマイニングに着手することで、仮想通貨取引同様、ポートフォリオの分散によってリスクヘッジを実現するのです。単に面白半分で仮想通貨ブームに便乗するのではなく、ビジネスとして冷静に計算しているしたたかさがうかがえます。
DMMマイニングファームのメリット3:事業所を日本国内に設置!
仮想通貨のマイニング事業は、その大半を中国勢が占めています。2017年12月にマイニング事業に着手したGMOインターネットでさえ北欧に設置したマイニングセンターを拠点としており、電気代の高い日本国内でマイニング事業を展開する会社はほとんど存在しません。
その点、DMMマイニングファームは北陸地方の石川県金沢市に設立されました。
一見無謀とも思える事業計画ですが、これには以下のような理由があります。
- 石川県はDMMの創業地
現在でこそDMMは東京の六本木グランドタワーに本社を構え世界的なインターネットコンテンツビジネスを展開していますが、その起源は石川県のとあるビデオレンタル店にあります。DMMにとって石川県は創業の地であり、特別な意味を持つ場所。もちろん土地代の勘定もあるでしょうが、あえてこの地を選択したことに事業家としての決意を感じます。 - ジャパンクオリティを追求
国内にマイニングファームを設置することにより、物資の輸送やメンテナンスの面でスピーディーな対応が可能になるという物理的な強みがあります。また、国内在住の方が気軽に足を運んで仮想通貨の理解を深められるという長所もあります。ただでさえ仮想通貨はよくわからない得体の知れないものだというイメージを持つ方が少なくなかったのに、コインチェックのハッキング事件のせいでますます仮想通貨は危険なものだと考える方が増えてしまいました。そのネガティブイメージを払拭する上でも、国内を拠点にマイニング事業を展開することは非常に意義のあることです。 - 寒冷地の気候は電気代の節約に重宝
北陸の寒冷地区にマイニングファームを設立することで、低価格な電力調達を実現し、マイニング収益を最大化することができるという利点があります。そして、石川の気候ならコンピュータをフル稼働しても冷却電力をある程度抑えることが可能。経済面でもマイニングにうってつけの場所といえるでしょう。
DMMマイニングファームのデメリット1:仮想通貨業界の先行き不透明感
どんなビジネスにも何かしらの事業リスクは存在します。メリットだけでなく、DMMのマイニング事業の潜在的リスクについても検証してみましょう。
まず考えられるのは、仮想通貨業界の先行き不透明感です。
現在でこそ仮想通貨取引は世界的なブームになっており、その市場規模も2018年1月時点で約1,600億ドルにまで急成長を遂げています。
しかし、仮想通貨はまだまだ発展途上の分野であり、解決していかなければならない課題がいくつも存在します。
特に重要視されているのが、仮想通貨の規制問題。ミエミエの相場操縦やICO詐欺が横行しており、世界中の金融当局が投資家を保護するための法規制を最優先事項として挙げています。
Facebookも仮想通貨事業を展開している会社の経営実態は極めて不明瞭であるとして、仮想通貨関連の広告を禁止する方針を打ち出しました。コインチェックがずさんなセキュリティ体制で約580億円分のネム流出を許してしまったことは、金融庁を動かすほどの社会問題となりました。
今後世界各国の政府が仮想通貨をどのように扱っていくかによって、業界の成長性が促進される可能性もあれば阻害される可能性もあります。
DMMマイニングファームのデメリット2:マイニング事業の採算性
北陸電力は全国10社の中で、最も電気代の安い電力会社です。日本国内でマイニング事業を展開するなら、北陸地方をおいて他にないと言っても過言ではありません。
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出典:エネチェンジ
しかし、コスト低減のために2018年4月1日から電気料金の改定が予定されており、将来的に値上がりしていく可能性があります。電気料金の高騰は、マイニング事業の懸念材料となります。
そして全体的に下落している仮想通貨価格も軽視できません。マイニング事業はマイニング報酬で収入を得るビジネスモデルであり、仮想通貨の価格が軒並み下落すれば、当然マイニング事業の収入も激減してしまいます。
今後仮想通貨の価格が安定して推移してくれるという保証はどこにもありません。もしも仮想通貨の低迷が長期化して赤字化すれば、採算が取れなくなってマイニング事業から撤退せざるを得なくなってしまうでしょう。
DMMマイニングファームのデメリット3:マイニングの衰退
現在業界の主流となっているビットコインやイーサリアム、ライトコイン等の仮想通貨は、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)というコンセンサス(同意形成)アルゴリズムが採用されており、世界中のマイナーがマイニングに参加することで運用が成り立っています。
しかし、PoWのマイニングには大量に電力を消費してしまう欠点があり、環境保護のために省エネ・脱炭素化が推進されている世界の機運に逆行するビジネスモデルが問題視されています。中国政府は国内のマイニング事業規制に動き、欧州でもマイニング事業者への電力供給を拒否する電力会社が現れました。
そのため、仮想通貨業界は脱PoWに向けて動いており、大規模な演算処理を必要としないPoS(プルーフ・オブ・ステーク)やPoI(プルーフ・オブ・インポータンス)など新しいアルゴリズムが次々と開発されています。
最近ではブロックチェーンではなくDAG(Directed Acyclic Graph:有向非巡回グラフ)というシステムを実装した仮想通貨もリリースされており、マイナーを確保することなく送金手数料無料・高速送金処理を可能に出来る優れた性能が人気を博しています。
仮想通貨は現在進行形で発展を続けている分野。今後主流となっていく仮想通貨のタイプによっては仮想通貨業界でマイナーの需要そのものが無くなり、マイニング事業自体がオワコン化していく可能性も考えられます。
まとめ
全体的に見れば、DMMのマイニング事業には十分な将来性を感じます。何より、あえて日本国内でマイニング事業を展開しようとするチャレンジ精神に敬意を表したくなります。
なお今後DMMは、2018年3月頃にマイニングファームのショールーム化を行う予定です。仮想通貨業界に不信感を持たれないようにするためには、仮想通貨がどのように運用されているのか、実際に実物のマシンを見てもらうのが一番手っ取り早い方法。業界関係者だけでなく、一般の方でも予約すれば見学に参加できるとのことです。
また、2018年の夏頃には、一般ユーザーがマイニングの権利を購入できる「クラウドマイニングサービス」の展開も予定されています。クラウドマイニングに参加すれば、わざわざ高額のマイニングマシンを購入しなくてもマイニング報酬を得られるメリットがあります。今後もDMMの仮想通貨事業から目が離せません。