出典:ccn
日本時間2017年12月22日、ベラルーシ共和国のアレキサンダー・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領が非常に興味深い声明を発表して話題になっています。
どの国でも仮想通貨取引で得た利益には所定の税率がかけられており、トレーダーには所得税の納税義務が生じます。しかし、今回制定された法令により、ベラルーシでは仮想通貨取引に係る税金が今後5年間非課税になることが決定しました!
ビットコイン取引で儲けている方にはこれから多額の税金に苦慮する悩みが待ち構えていますが、ベラルーシに行けば支払う税額が5年間0に!!!このニュースを聞いた日本人トレーダーの間では、
「俺、明日からベラルーシに移住するわ」
との歓喜の声が早くも続出しています。
国家にとっては仮想通貨ブームに乗じて税収を増やせるチャンスなのに、なぜベラルーシ共和国は仮想通貨取引に係る税金を非課税とする法令を施行したのでしょうか?法令の内容や実現に至った経緯を具体的にご紹介しましょう。
ベラルーシ共和国ってどんな国?
出典:katehon
ベラルーシは、東ヨーロッパに位置している人口約950万人(2017年1月時点)の国です。首都はミンスクで、通貨はベラルーシ・ルーブル(BYR)です。
西方にポーランド、南部にウクライナ、北西にリトアニアとラトビアがある内陸国で、かつては東部と国境を接しているロシア(ソ連)の支配下にありました。そのため、現在でもベラルーシ語とロシア語の二つが公用語として使われています。
支配下にあったといってもロシアに対して敵対心を抱いている国民は少なく、むしろ国際社会と逆行するほどの親ロシア政策を推進しています。現大統領のアレキサンダー・ルカシェンコ氏は1994年の初当選以来、5期20年以上に渡って現職を継続。独裁的な政治に対して批判の声もあり、過去には抗議デモ隊との衝突事件が起きたこともあります。
ちなみにベラルーシという国名は、西方を指す「ベラ(白)」と現地民の名前の「ルーシ(ルーシ人)」の組み合わせに由来しています。日本でもかつては「白ロシア・ソビエト社会主義共和国」と呼ばれていましたが、ソビエト連邦解体の頃に独立して現国名に変更されました。
1986年4月にウクライナのチェルノブイリで原発事故が発生した際には、風の影響で最も深刻な損害を被りました。現在も約10%の国民が汚染地域での生活を余儀なくされており、東日本大震災で福島原発から放射能漏れ事故が起きてしまった日本にとって非常に共感を覚える存在と言えるでしょう。
旧ソ連時代に培った工業が主産業となっており、近年では情報通信業の発展にも尽力。楽天が買収した通話アプリViberの開発元もベラルーシであり、世界的オンラインゲーム企業Wargaming社もベラルーシで創業されました。現地では高給与のITエンジニアが大人気の職業となっています。
法案の概要
今回ルカシェンコ大統領が署名した「デジタル経済の発展(On the Development of Digital Economy)」法案の骨子は以下の通りです。
- 仮想通貨、ICO(initial coin offerings)およびスマートコントラクト(暗号化技術を活用したプラットフォーム・契約)を合法化する。
- 仮想通貨取引およびマイニングによって得られる所得を2023年1月1日までの5年間非課税とする。
- 仮想通貨の購入・保管・交換・寄附・相続等も5年間免税。
この法案により、ベラルーシ国家内での仮想通貨とルーブルの交換、ICO取引、マイニング等の仮想通貨ビジネスが法的に完全に認可されたことになります。しかも仮想通貨事業に付随する所得税が5年間も免除されるため、仮想通貨ビジネスに関与しているビジネスマンにとって非常に大きなメリットをもたらしてくれます。
法案導入の経緯と今後予想される展開
ルカシェンコ大統領は署名に際して、
「この法令の最大の目的は、グローバルIT企業がベラルーシで事業所を開設し、国際的シェアのサービスを開発することのできる環境を整えるためだ」
とコメントしています。
今からさかのぼること10年以上前の2005年、ベラルーシではアメリカのシリコンバレーを模した「High-Tech Park (HTP)」と呼ばれる経済特区を設立しました。すでに述べたようにベラルーシは情報通信業に非常に力を入れており、IT事業を展開しているHTPの住民に所得税や付加価値税、固定資産税等が免除される税制優遇制度を適用してITの発展を促進しています。
ルカシェンコ大統領は「デジタル経済の発展」法案を施行することでグローバルIT企業の誘致を図り、ベラルーシ発のイノベーションを期待しているようです。マイニングが合法化されたことで、全国的に電力需要がアップ。中国やアメリカなど仮想通貨事業を展開している大会社も挙ってベラルーシに拠点を移し、ベラルーシの経済成長率が大幅に高まる可能性があります。アメリカのトランプ政権が大規模な減税を行って国際競争力の向上を図っているように、仮想通貨事業に付帯する所得を5年間非課税とするだけの価値が十分にあると判断したようです。
また、ベラルーシは2018年春に大規模な仮想通貨取引所を開設するとのこと。仮想通貨とルーブルとの交換や為替取引などあらゆる仮想通貨取引サービスを提供する予定です。HTPの法人が独自に発行したICOトークンも投資対象となり、仮想通貨は欧州圏の金融市場に多大な経済効果をもたらすことでしょう。
海外のネットユーザーの反応
- マジすげーよ、これ。次の引越し先が決まったな!
- うちの会社も近い将来ベラルーシに移転するだろう。
- 実に賢い選択だね。仮想通貨の非課税システムによって将来的にさらに大きな税収を生み出すことができる。
- これで中国の大規模なマイニング事業所がベラルーシに移転したら大成功だな。
- もっと多くの国が新技術を潰そうとするのではなく許容してくれることを期待するよ。
日本の仮想通貨取引に係る税金について
2017年12月現在、日本では仮想通貨取引で得た利益が「総合課税の雑所得」とみなされています。(マイニングの利益は事業所得としても申告可。)つまり、海外FXやアフィリエイト報酬、インターネットオークション等の儲けと同じ扱いであり、年間の雑所得の合計利益が20万円以上、あるいは50万円以上の仮想通貨を譲渡された場合は確定申告を行う必要があります。(所得税率は以下の通り。)
出典:国税庁
その際、仮想通貨取引の損益を雑所得以外の所得と通算することは出来ません。つまり、ビットコイントレード等で多額の損失が出ても、その分を給与所得から差し引いて税金を安くする等の節税が出来ないのです。
申告分離課税が適用される株式取引や国内FXの場合、確定申告すれば譲渡損失を最大3年間繰越控除できる税制優遇制度がありますが、仮想通貨取引にそんなものはありません。
ぜひ日本でも仮想通貨取引に係る税金を非課税……せめて減税して海外企業の誘致に勤しんでいただきたいものですが……、現実的に考えて厳しいでしょうね。日本は仮想通貨取引に関しては世界でもトップクラスのシェアを誇っていますが、税制面ではまだまだ後れているのが実情です。
これからは欧州圏・中南米の仮想通貨事業に要注目
仮想通貨ビジネスといえば、大規模なマイニングを展開している中国やビットコインの先物取引を開始したアメリカなどの大国がリードしているような印象を受けますが、欧州圏も負けていません。
現在の仮想通貨の地位は、一部の投資家だけが取引している極めて限定的な金融資産です。しかし、ヨーロッパ北部に位置しているエストニア共和国では、なんと政府が独自の仮想通貨「estcoin(エストコイン)」を発行する政策を検討しているそうです。
エストニアはベラルーシ同様、非常に情報通信業が盛んな地域であり、ネット上で国家の電子サービスを利用できる「イー・レジデンシー(電子居住)」というサービスを世界で初めて導入したことでも知られています。そんなエストニアが仮想通貨に目をつけるのは必然の流れ。ECBのドラギ総裁を含め近隣諸国の金融関係者から猛烈な批判を浴びていますが、今後の展開に世界の関心が集まっています。
一方、ハイパーインフレ真っただ中の南米ベネズエラでは、マドゥロ大統領が石油や天然ガス、金、ダイヤモンド等の資源を担保とした仮想通貨「ペトロカレンシー」を導入する方針を表明。ベネズエラでは以前から10万人以上の国民が安い電気代を活用したビットコインのマイニングを行っており、経済難に苦しむ人々の生活の糧となっています。
将来的に仮想通貨は単なる取引資産の枠組みを超え、世界の政治・金融情勢に大きな変化をもたらしていくことでしょう。今後も世界の仮想通貨ニュースから目が離せません。