韓国当局の仮想通貨取引所閉鎖発言で暴落が発生したように、最近の仮想通貨相場はファンダメンタルに大きく左右されています。仮想通貨の歴史自体が非常に浅い上に、もともと仮想通貨は株式のように資本価値が明確に定まっているものではないので、悪材料が出る度に投資家心理が大きく揺らいでしまうのは仕方ない事です。
そして2018年1月18日に、仮想通貨トレーダーを警戒させる新たな話題が噴出しました。
ルメール仏経済・財務相とアルトマイヤー独財務相がフランスのパリで共同会見を行い、2018年3月19~20日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催予定の次回の20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議にて、「仮想通貨の国際規制」を議題に挙げることを提案しました。
もしも次回のG20会合で仮想通貨が議題に挙がれば、G20で仮想通貨が協議される初のケースとなります。
G20とは?
出典:GovernmentZA
G20(ジートゥエンティ)は、"Group of Twenty"の略です。その名の通り、20か国で構成されるグループで、該当する国は下記のとおりです。
- アメリカ
- イギリス
- フランス
- ドイツ
- 日本
- イタリア
- カナダ
- EU
- ロシア
- 中国
- インド
- ブラジル
- メキシコ
- 南アフリカ
- オーストラリア
- 韓国
- インドネシア
- サウジアラビア
- トルコ
- アルゼンチン
定期的に首脳会合(G20サミット)や財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されています。主に世界経済の安定のために金融問題について協議される場です。
先進国から新興国まで様々な国の代表が一堂に会するため、非常に意義のある意見交換を交わすことができるのが特徴的。過去には、ドル高是正のプラザ合意やリーマン・ショックによる金融危機からの回復・再発防止方針決定など大きな役割を果たしました。
ちなみに開催地は参加国の持ち回り。日本は2019年にG20サミット開催地となる予定です。
共同会見の概要
出典:arabnews
ルメール仏経済・財務相は、「ビットコインには明らかに投機のリスクがある。我々はこれを深く検討し、G20の構成国全員でどのように規制できるか考慮する必要がある」とコメント。
アルトマイヤー独財務相も、「我々は市民に対してリスクを説明し、規制によってリスクを低減させる責任を負っている」との姿勢を表明しました。
すでに欧州連合(EU)は、ビットコインをはじめとした仮想通貨によるマネーロンダリングやテロ目的の資金供与を防止するための規制強化に合意しています。
ドイツとフランスの中央銀行関係者らはビットコイン取引のリスクを分析し、その後規制案を作成して次回のG20サミットで共同提案する模様です。
現在仮想通貨の取扱いについては各国の判断にゆだねられており、容認派と否定派で真っ二つに分かれています。とはいえ、中央機関を介することなく独自の経済圏を構築できる仮想通貨の存在は、各国の中央銀行にとって非常に目障りな存在であることは確実。内心はどこの国も規制したいと思っていることでしょう。
投資家にしてみれば、たとえ自国の仮想通貨取引所が閉鎖されても、他の国で取引すれば良いだけの話。抜本的な規制を進めるためには、ビュルメリング理事が仰ったように全世界の共同作業が絶対に不可欠です。G20会合で各国の足並みが揃うか、大いに注目です。
肯定的(ただし規制もあり) | 否定的 | ||
---|---|---|---|
日本 | 取引所の登録を義務付けている | 中国 | ICO禁止・取引所閉鎖 |
アメリカ | 州によって規制内容が異なるが、基本容認 | 韓国 | 取引所閉鎖を検討中 |
EU | 国によって異なるが、本人確認の徹底や匿名取引禁止を進めている | ロシア | 厳格な規制法のもとで一部容認 |
オーストラリア | 基本自由だが、取引所を監視 | ネパール | 仮想通貨事業禁止 |
ブラジル | ファンドによる仮想通貨投資を禁止 | バングラデシュ | 仮想通貨の使用を禁止 |
カナダ | 仮想通貨ビジネスを積極的に導入 | インドネシア | 仮想通貨取引禁止を進めている |
ベラルーシ | 仮想通貨の利益を5年間非課税 | エジプト | イスラム教義に反するとして禁止 |
国際規制の考察
私たちトレーダーにとって一番重要な問題は、「具体的に何を規制するのか?」という点です。一口に「規制」と言っても、市場発展のために法整備を進めるものから、市場そのものを壊滅させる禁止措置にいたるまで多岐にわたっています。
しかし、分散型の仮想通貨システムの根絶は、地球上からインターネットそのものが無くならない限り絶対に不可能です。
たとえ世界中の仮想通貨取引所を潰したとしても、DEX(Decentralized Exchange)と呼ばれる分散型取引システムを使えばユーザー間での取引が可能であり、公にならないところで売買する連中はいくらでも湧いてくるでしょう。それに記者会見ではビットコインを規制すると仰っていましたが、それではアルトコインは放置なのか?など色々な疑問が沸いてきます。
ともあれ、今後発表される規制内容次第で仮想通貨の相場が大きく揺れることは間違いありません。はたしてこれは安値を拾えるチャンスなのか?それとも仮想通貨ブームの終焉となるのか?現時点で想定できる国際規制の概要を予想してみましょう。
1. 仮想通貨が有価証券になる
記者会見の発言内容を見てみると、関係者らは仮想通貨の投機性(値動きの激しさ)やマネーロンダリング(資金洗浄)への悪用を懸念しており、別に仮想通貨取引そのものを禁止する意図はないように思えます。
「禁止」と「規制」は全くの別物。市場の健全化のために一定の基準を設けるだけなら、むしろ大歓迎の国際規制と言えるでしょう。
一番現実的なのは、仮想通貨を正式に「有価証券」として認定するというプランです。
これまで仮想通貨は、貨幣でもなければ金融資産とも言い難い微妙な位置づけのまま取り扱われてきました。これを株式や国債と同等の有価証券にすれば、日本における金融商品取引法の該当商品となり、取扱い業者に様々な規制をかけることが可能となります。
具体的には、
- 取引所の登録義務付け
- 本人確認の厳守
- 信託保全の確立
- マネーロンダリング対策支援
- ICOの認可制(要情報開示)
- インサイダー取引・相場操縦への罰則等
の規制が実現します。
つまり、現在日本で導入されている規制をもう少し発展させた程度の規制にとどまるわけです。これは仮想通貨市場の透明性・信頼性向上につながるため、価格は下がるどころか上がる要因になるでしょう。
ICOの詐欺横行は日本国内でも問題視されているほど悪質なので、このプランはすぐにでも導入していただきたいものです。
2. 取引市場に制限が設けられる
投資家保護のために、仮想通貨市場に「値幅制限」が設けられる可能性も十分に考えられます。株式市場に「ストップ高」や「ストップ安」といった株価の急変を防ぐシステムがあるように、仮想通貨も価格が一定値以上暴騰・暴落したら一時取引が停止されるわけです。
また、現在ロシアが進めている仮想通貨法案のように、一人あたりが仮想通貨に投資できる金額に上限を設けるというプランもあり得るでしょう。これなら投資家の保護と共に、ミエミエの価格操作をある程度防止できるメリットがあります。
ただし、大口買いが出来なくなる分、全体の出来高は下がり、これまでのような大幅な値上がりが期待できなくなるという欠点があります。仕方ない事ですが、仮想通貨に入れ込む個人投資家の熱が下がり、人気が低迷する可能性も考えられます。
3. 仮想通貨と法定通貨の交換を全面禁止
これはまずありえないプランですが、ドルやユーロ、円などの法定通貨と仮想通貨との交換そのものをシャットダウンする規制方法もあります。
現在の仮想通貨市場が単なる投機場と化しているのは、キャピタルゲイン狙いのトレーダーが多く参入しているからに他なりません。ならば、仮想通貨と法定通貨との交換を完全に禁止して短期取引の旨味を抹消。あくまで仮想通貨は一部サービスの決済手段としてのみ機能するツールにしてやるわけです。
「中央機関に依存することなく独立した経済圏を作る」という仮想通貨本来の目的にマッチした在り様であり、仮想通貨がテロ資金として悪用されるリスクも軽減できます。
個人的に、これをやられると非常にまずい。自分の保有している仮想通貨が無価値になると勘違いした個人投資家が市場から一斉に逃げ出し、パニック売りによる大暴落が発生する可能性があります。仮想通貨ブームは一気に衰退するでしょう。
しかし、これは仮想通貨取引所のサービスを潰すことに他ならず、実現は極めて非現実的です。それにすでに述べたように、中央集権的な仮想通貨取引所が無くてもユーザー同士の取引を完全に禁止することは出来ないため、かえって取り締まりが難しくなり、あまり意味をなさない規制と言えるでしょう。単に相場の混乱要因になるだけのように思えます。(法定通貨との交換時に多額の手数料を徴収したり重い税率を課したりする可能性はありますが……。)
私としては、仮想通貨が闇ビジネス化して社会の陰でコソコソ売買されるような未来は想像したくありません。
まとめ
今回の共同提案は、仮想通貨に関する国際的なルールのあり方を確認し、具体策の議論を始めることが目的です。仮想通貨に関する世界各国の意見がこれだけバラバラな状況で、いきなり結論を出すのはまず不可能。おそらく議論は平行線のまま終わって、うまくまとまらないのではないかと思います。(そもそもG20に強制権はありません。)
とはいえ、長期的に見て国際的な議論は間違いなく市場にとってプラスです。今や金融・不動産・個人情報管理等の幅広い分野で電子化が進んでおり、すでに多くの銀行がブロックチェーン技術を応用した送金システムの実用段階に入っています。
大げさでも何でもなく仮想通貨はフィンテックの基軸となるテクノロジーであり、安易に潰すことは社会にとって大きな損害です。だからこそ健全な市場成長を促すために、ある程度の規制はやむを得ないと考えます。将来的には、仮想通貨業界を監督する国際的第三者機関が設立されるかもしれません。
「G20で仮想通貨が規制される!!!もう仮想通貨はおしまいだ!!!」と思っている方には、過度な心配はご無用と提言します。むしろ長期的には好材料です。他のトレーダーが焦って手放した安値を拾えるチャンスとみなすべきでしょう。