出典:enel
世界的に仮想通貨の規制が強まっている中、今後の仮想通貨業界の在り方に大きな影響を与える可能性のある事態が欧州で発生し、関係者の間で話題となっています。2018年2月1日、欧州のイタリアに拠点を構える大手電力会社・Enel(エネル)が仮想通貨のマイニング事業者に対して一切電力を売らない方針を発表したのです。
将来性に長けた仮想通貨事業者と提携すれば莫大な利益を得られるチャンスなのに、なぜこのような決定に至ったのでしょうか?詳細を見ていきましょう。
マイニングについて
マイニングとは、仮想通貨の取引データをブロックチェーン上に記録していく「承認作業」のことです。仮想通貨が正常に運用されるためには欠かせない作業であり、その仕事にあたってくれるマイナーに所定の報酬を発行することでマイナー人員を確保するシステムが構築されています。
最近では多くの企業がビジネスプロジェクトの一画としてマイニング事業に参画。北米、欧州、中南米などに専門の施設を建設し、膨大な数のコンピュータを導入してマイニング事業を展開しています。
ちなみにマイニングには、コンピュータさえあれば個人でも参加することが可能です。ハッキングリスクのある仮想通貨取引所で売買しなくても安全に仮想通貨を獲得することができるため、個人でマイニング事業を実践している方も珍しくありません。一般人でも出来るマイニングには、主に以下の3種類があります。
- ソロマイニング
自分一人で全作業を行うマイニング。ブロックチェーン上で新しいブロックが生成される際に出題される計算問題を、約10分の制限時間内で一番早く解答することを目指します。上手くいけばマイニング報酬を独り占めできますが、世界中の個人・企業がマイニングに参加している現況、ソロマイニングで安定した利益を出すのは極めて困難です。 - プールマイニング
複数人で協力し合って作業を進めるマイニング。チーム内の誰かが計算問題の解答にたどり着けば、マイニング報酬をみんなで山分けすることができます。自分の取り分が少なくなるデメリットはあるものの、ソロマイニングより大幅に成功率が高まるメリットがあります。 - クラウドマイニング
自分でやるのではなく、マイニング事業を展開している会社に出資して一連の作業を代行してもらうマイニング。利益が出たら、出資者に対して所定の報酬が分配されます。株式会社とよく似たシステムであり、自分でマイニングの専門知識を勉強したりマイニングマシンを準備したりする必要が無いというメリットがあります。ただし、最近では報酬を支払わずに逃げる詐欺会社が増えてきているので、利用の際は注意が必要です。
エネルがマイニング事業者への電力供給を拒否した経緯
Enel(エネル)は、イタリアのローマに本社を構える多国籍企業の電力会社です。風力や太陽光などの再生可能エネルギーを取り扱っており、欧州最大規模の経営力を誇っています。
マイニングでは高性能コンピュータをフル稼働させて膨大な演算処理を行うため、通常のインターネットサーフィンとは比べ物にならないほど大量の電気を必要とします。そのため、マイニング事業者は電気代が安い国で安定した電力供給ラインを確保しなければなりません。
スイスに拠点を構えるEnvion AGという仮想通貨マイニング事業者は以前からエネルに対し、マイニング事業が長期的な電力需要を確保できる魅力的なビジネスモデルであることをアピールしていました。エネルの関係者も当初はEnvionとの契約締結に意欲的でした。
しかし、詳細な協議を続けていくうちにエネル側の態度が一変。仮想通貨マイニング事業者に対しては自社電力を絶対に売らないという結論に至り、主要顧客になる予定だったEnvionとエネルとの提携計画が白紙になってしまいました。
エネルの関係者はその理由を以下のように説明しています。
「エネルはこれまで、地球温暖化対策に欠かせない脱炭素化・持続可能な技術の開発に尽力してきた。膨大な電力を消費し続ける仮想通貨マイニング事業は持続不可能なビジネスモデルであり、我々の目指しているビジョンと合わない。」
Italy's Enel not interested in powering cryptocurrency miners
出典:reuters
簡単にまとめると、環境保護を重視するクリーンな電力事業を展開してきたエネルにとって、あまりにも電力を消耗する仮想通貨マイニングは企業理念に反する存在であり協力できないという事です。
欧州圏で圧倒的なシェア率を誇っている電力会社から事業提携を拒否されたことは、仮想通貨マイニング事業者にとって無視できない問題です。
マイニング事業が抱えている現実的なリスク
世界的な仮想通貨ブームが続いている昨今、その運用を担うマイニング事業は将来性抜群のビジネスモデルであるかのように思えます。しかし、現実的な観点でマイニング事業を分析すると、その先行きも決して順風満帆とは言えません。
その最大の問題は、電力会社ですら絶句するレベルの電力消費量です。
仮想通貨ニュースサイト・Digiconomistによると、ビットコインの電力需要は2017年末時点で年間約33.1TWh(テラワット時)にまで上昇しています。これはすでに欧州圏の一国の年間電力消費量を上回る数値であり、今後市場規模が拡大していけばさらに増大する可能性を秘めています。
個々のビットコイン取引には、約300kWhの電力が消費されています。片や、法定通貨の決済を行っているVISAの一取引あたりの電力消費量はわずか0.01kWh。全てネット上でやり取りされる仮想通貨の運用には、これまで人類が体験したことのないほど異常な量の電力を浪費してしまうという欠点があります。
「このままでは仮想通貨のせいで地球が壊れるだろう」と気候変動リスクに警鐘を鳴らすアナリストもおり、仮想通貨マイニングが環境に及ぼす悪影響についていくつかの環境団体がすでに詳細な調査を開始しています。
あの中国ですらマイニングの膨大な電力消費量に警戒を強め、国内のマイニング事業を取り締まる電力制限法案制定に動いています。仮想通貨業界の70%以上のマイニングをつかさどる中国のマイニングプールは、安定して電力を確保できる拠点を求めて国外に移転中。しかし、今回のエネルのようにマイニング事業者への電力供給を拒否する電力会社が増えていけば、マイニング事業のかじ取りも容易ではなくなってきます。これはビットコインの安定性にもかかわってくる問題です。
カナダやベラルーシなど仮想通貨ビジネスを積極的に受け入れている国も存在しますが、自国の電力供給インフラに支障を及ぼすようになればさすがに黙っているわけにはいかないでしょう。万一発電所がダウンするような事態にでもなれば、国民の命にかかわる問題。「マイニング事業者は国から出ていけ!」と国民の間でシュプレヒコールが巻き起こるのは想像に難くありません。
仮想通貨は投機性だけでなく、マイニングの分野でも規制対象になる可能性が高いです。
マイニングは脱POWへ
電力会社が電気を売ってくれないなら、マイニング事業者がマイニング専用の電力会社を自分たちで作るという対応策もあります。しかし、マイニングの電力を制限する法律を政府が制定すれば結局は同じこと。マイニングの市場規模は縮小を余儀なくされてしまうでしょう。
それでは仮想通貨はオワコン化していくのかというと、決してそんなことはありません。すでに仮想通貨業界では、新しいマイニング方式へ移行が進んでいます。
すでに述べたブロックチェーンの演算処理問題のマイニングは、POW(Proof of Work:プルーフ・オブ・ワーク)といってビットコインやライトコイン等の仮想通貨に実装されているマイニングの仕様です。実は仮想通貨のマイニングには色々なタイプがあり、中にはマイニングを行わなくても仮想通貨を獲得できるものもあります。2018年2月時点で市場に広まっている主なコンセンサス(同意形成)アルゴリズムをまとめてみましょう。
POW(Proof of Work:プルーフ・オブ・ワーク)
POS(Proof of Stake:プルーフ・オブ・ステーク)
POI(Proof of Importance:プルーフ・オブ・インポータンス)
POC(Proof of Consensus:プルーフ・オブ・コンセンサス)
POB(Proof of Burn:プルーフ・オブ・バーン)
まとめ
もともとPOWだったイーサリアムも将来的にPOSに移行していく予定であり、仮想通貨業界全体が低消費電力化に向けて開発を急いでいることが分かります。いかにネット上にしか存在しない電子データとはいえ、仮想通貨も現実世界に合わせてさらに進化していく必要があるのです。
スケーラビリティ問題の解決協議すら満足にまとまらなかったビットコインより、時代のニーズにマッチした機能を有しているアルトコインの方が将来性に長けています。話題性や人気はもちろんのこと、時には仮想通貨のマイニング性能を重視して投資してみるのも面白いのではないでしょうか。