出典:楽天
2018年2月27日、楽天の三木谷浩史会長兼社長はスペインのバルセロナで開催されている「Mobile World Congress(モバイル・ワールド・コングレス)2018」に登壇し、独自の仮想通貨「楽天コイン」を発行する構想を発表しました。
楽天グループのポイントとブロックチェーン技術を組み合わせることで、
- 取引履歴
- 会員情報
- ポイント
などを共有・一括管理することが可能となります。
三木谷氏はモバイル・ワールド・コングレスにて、
「日本では約4万4000業者が楽天市場で商品を売っている。大きなマーケットだ。」
とコメントしており、楽天コインを活用することでさらなる市場規模拡大を目指す狙いのようです。
現時点ではまだ楽天コインは構想段階であり、具体的な導入時期やサービスの詳細までは明らかにされていません。そこで、現在推測できる範囲で楽天コインの魅力や将来性、他の電子マネーサービスとの違い等について考察しまとめてみました。
楽天コインの特徴
多くの人は今回のニュースを聞いて、「楽天キャッシュ」や「楽天Edy」等の既存の電子マネーサービスと何が違うのかと疑問を抱いたのではないでしょうか。
端的にまとめると、楽天コインは現在楽天グループが提供しているポイントプログラムの代替サービスになると見られています。
およそ15年前にスタートした楽天スーパーポイントの累計付与数は、およそ1兆ポイント。実に約91億ドル(9753億円)に相当する金額であり、楽天ユーザー数増加に大きく貢献しています。
いずれも「楽天市場」や「楽天トラベル」といった楽天グループの代金支払いに充てることができるポイントであり、ほとんど同じように扱われています。しかし、実際には各サービスに以下のような違いがみられます。
楽天スーパーポイント (楽天ポイント) |
楽天キャッシュ | 楽天Edy | 楽天ペイ | |
---|---|---|---|---|
概要 | 楽天グループのポイントプログラム | 楽天グループ専用のオンライン電子マネー | プリペイド型電子マネー | キャッシュレス決済システム |
用途 | 楽天グループでのサービス代金に充てられる 1回につき3万ポイント、1か月に10万ポイントが上限 |
楽天グループでのサービス代金に充てられる 1回につき10万ポイント、1か月に100万ポイントが上限 |
楽天Edyの対応店舗で、Edyカード・Edy機能付き楽天カード・アプリ等によって決済が可能 | 楽天ペイの対応店舗で、クレジットカード・電子マネー・スマホ決済等が可能 楽天スーパーポイントでの支払いも可能 期間限定ポイントも使用可能 |
入手方法 | 楽天グループのサービス利用時に一部還元 楽天Edyと交換 楽天証券ポイントと交換 |
クレジットカードやデビットカードで購入 1か月の購入:10万円まで 1回の購入:10万円まで 購入単位:1,000円以上100円単位 楽天カード・楽天銀行デビットカードは手数料無料 上記以外のクレジットカードの手数料:3.0% その他、アフィリエイトで付与 |
現金・クレジットカード・Edyチャージアプリ・楽天スーパーポイント等でチャージ | 事前にクレジットカード情報等の登録が必要 |
他社での利用 | ANAマイルと交換可 | × | 全国のコンビニエンスストア等、全国50万か所以上の加盟店で利用可能 | レコチョク、Oisix、DMM等のオンラインストアおよび全国各地の加盟店で利用可能 |
譲渡 | × | 楽天会員同士で譲渡可能 手数料:54円(税込) 1か月の送信:100万円まで 1回の送信:10万円まで 送信単位:54円以上1円単位 |
× | - |
換金 | × | 楽天銀行で現金化可能 手数料:換金額の10% 1か月の換金:100万円まで 1回の換金:10万円まで 換金単位:1,000円以上、1,000円単位 |
× (現金化の裏技はあるが奨励しない) |
- |
有効期限 | 最後にポイントを獲得した月を含めて1年間 期間内に1度でもポイントを獲得すれば有効期限は延長 ※期間限定ポイントは期限延長の対象外 |
獲得から10年間 延長なし |
最後に更新された日から4年 | - |
楽天コインのメリット1:事業資金の円滑化
このように、楽天グループは多彩な電子マネーサービスを展開しているため、一見すると仮想通貨の必要性を感じない方もいることでしょう。しかし、楽天コインには既存の電子マネーサービスには無い様々なメリットがあります。
その一つが、引当金の削減です。
⇒ユーザーが使わずに放置しているポイントの分も供託金が必要なので、事業資金の無駄が発生しやすい。
⇒ポイントを仮想通貨にすればその懸念を解消できる。
大規模なポイントプログラムを展開している楽天グループにとって、引当金の削減は非常に意義のあるメリットです。
楽天コインのメリット2:グローバルなマーケティングの実現
もう一つのメリットは、国際的事業の展開が容易になるという点です。
⇒「国境のない通貨」である楽天コインを導入すれば、国際決済時の取引手数料や両替手数料の軽減、迅速な決済が可能になる。
⇒Amazonをはじめとしたライバル企業との差別化を図り、楽天グループが目指している「小売業者と卸売業者との関係を再構築する」というビジョンを実現できる。
⇒新規顧客を獲得し、国際事業拡大の基盤となる。
三木谷氏が大のサッカー好きということもあり、楽天グループはスペインのサッカークラブ・FCバルセロナのスポンサーを務めています。併せて、Rakuten TVでは北米のバスケットリーグ・NBAの試合を観戦できる月額視聴サービス「Rakuten NBA Special」も展開しています。
楽天の子会社であるViberやEbates、PriceMinisterなどのサービスにも楽天コインが導入される見通しであり、越境ECビジネスを展開している楽天にとって仮想通貨は最高に相性の良いツールなのです。
ユーザーにとっては決済ツールの高性能化、企業にとっては市場規模拡大というメリットがあり、大きな経済効果をもたらしてくれる可能性を秘めています。
楽天の仮想通貨事業の注目点
楽天コインはまだ構想段階であって、正式なサービス開始時期は明らかにされていません。
とはいえ、もしも本当に楽天が仮想通貨事業に本腰を入れたら、楽天グループのサービスにどのような影響があるのでしょうか。注目すべきポイントをチェックしてみましょう。
楽天コインの取引は可能なのか?
私たち投資家にとって最初に気になるのは、「楽天コインが取引可能な資産なのか?」という点でしょう。
基本的に楽天キャッシュ以外のポイント・電子マネーは、交換や換金に対応していません。そして楽天キャッシュも譲渡・現金化の際に手数料がかかるため、他のユーザーとのやり取りにはあまり向いていない特徴があります。
もしも仮想通貨取引所に上場し、自由に取引できるようになれば、投資家の注目が一気に跳ね上がることでしょう。
しかし、残念ながらその可能性は低いです。
- もともと電子マネーは、顧客に自社サービスを優先的に利用してもらうために考案されたシステム。
- 楽天コインが楽天グループとは無関係な所で投機マネーに流用されることを三木谷氏が許容するとは思えない。
- ビットコインのように価値が乱高下したら、ECサイトユーザーから不満が出る。
おそらく個人ユーザー間の送金や現金化には対応するでしょうが、一般的な仮想通貨のように大々的に取引されるような資産にはならないのではないでしょうか。楽天コインは、楽天グループや提携店舗で使える独自トークンという形になるのではないかと思われます。
楽天コインのマイニングは可能なのか?
「マイニング」と呼ばれるブロックチェーン作成の承認作業に加わることで報酬を得られるのが仮想通貨の魅力の一つです。
はたして楽天コインのマイナーになって稼ぐことは可能なのでしょうか?
残念ながらこれも可能性は低いでしょう。
Zaifが発行しているZaifトークンのように、企業が完全に流通をコントロールしている中央集権型独自トークンの場合、利用者が勝手にマイニング出来ない仕様になっています。
楽天コインは、リップルのような高性能決済ツールになる可能性が高いです。
個人的には、楽天ユーザーのみマイニングに参加できる権利が与えられたら面白いのではとも思いますが。(笑)
楽天がコインチェックを買収する?
インターネットユーザーの間では、楽天がコインチェックを買収するのではないかという噂が広がっています。
1月26日にハッキングによって約580億円分のXEM(ネム)を盗まれてしまったコインチェックは、経営立て直しのために他社との資本提携を検討している真っ最中です。
もしもコインチェックを買収すれば0から独自仮想通貨取引所を立ち上げる手間を省けるため、楽天にとっても悪い話ではありません。
コインチェック、資本提携検討 商社や金融機関など候補 金融庁も後押し
出典:sankeibiz
実際、楽天は2016年にBitNetというビットコイン支払いサービスを提供している会社を買収しており、その後「楽天ブロックチェーン・ラボ」という施設を設立してブロックチェーン技術の応用性を研究する事業を展開しています。
大手IT企業である楽天がコインチェックを買収すれば、同社の破産という最悪の展開を防げるため、顧客からも喜ばれることでしょう。
とはいえ、楽天は2月26日にMNO(携帯電話事業者)への新規参入を表明しており、数千億円規模の設備投資を予定しています。多忙な楽天がコインチェックの買収を検討するかどうか極めて未知数ですが、実現すれば仮想通貨業界のビッグニュースになることは確実です。
まとめ
楽天は紛れもなく日本を代表する大手IT企業の一つであり、時価総額は125億ドル(約1.3兆円)以上にものぼると試算されています。
そんな楽天が仮想通貨事業に本腰を入れ始めたのは、業界にとって間違いなく好材料でしょう。
ICOコンサルティング事業の基本合意を発表しただけで株価が昨年来高値を更新したOKWAVE(オウケイウェイヴ)のように、今や仮想通貨関連事業を打ち出すだけで企業の株価が急騰する時代です。
好業績と相まって楽天の株価も900円台前半から1,000円付近まで反発しており、このまま良い経済効果につながることを期待したいところです。
将来的には、楽天に付随して他のEC企業も続々と独自仮想通貨を発行していく展開が予想されます。仮想通貨がネット通販をどのように変えていくのか、今後も仮想通貨ニュースから目が離せません。