ハッキングによってcoincheck(コインチェック)から約580億円分のXEM(ネム)が不正流出してしまった問題は、ネムを筆頭に多くの仮想通貨価格を暴落させる悪材料となりました。この事件は現在警察が調査に乗り出しており、北朝鮮のハッカーグループの仕業か、それとも中国の関係筋か、はたまたコインチェック社の内部関係者が犯人か等、様々な憶測が飛び交っています。
コインチェック幹部が打ち出したハッキング被害者への補償方針についても、返済原資や日程が極めて不透明なままです。本当に補償されるのかどうか、多くの投資家が疑心暗鬼に陥っています。仮想通貨のレートも、全面安が続いています。
そんな中、さらに投資家心理を悪化させるような懸念材料が世界中で続出しています。その中でも、トレーダーから特に意識されそうな悪報を3つまとめてみました。仮想通貨相場の軟調の原因を知りたい方は、世界で起こっている仮想通貨ニュースにしっかり目を通しておきましょう。
悪報1:高校3年生の男子生徒がモナーコイン(MONA)の不正入手で逮捕
コインチェックに不正アクセスした犯人はまだ捕まっていませんが、別の仮想通貨不正入手事件で一人の男性が逮捕されました。しかも逮捕されたのが、大阪府貝塚市在住の高校3年生の男子(17)と聞いて、関係者の間に動揺が広がっています。
愛知県警の発表によると、不正指令電磁的記録作成・同供用の疑いで逮捕された17歳の少年は、ウォレットからモナーコインを引き出す際に必要となるキーを不正入手できるコンピュータウイルスを2017年10月10日頃に自宅で作成。モナーコインのレートをリアルタイムにチェックできるトレーディングプログラムにそれをセットし、モナーコインの掲示板に投稿。不特定多数の人が自由にダウンロードできる状態にしておいたそうです。
そして10月中旬頃に、東京都江戸川区在住の男性会社員(31)がダウンロード。コンピュータウイルスが仕込まれていると知らずにアプリを起動してしまい、約1万5000円相当のモナーコインを不正に引き出されてしまったとのことです。
出典:ITpro
なお、本人はこの件に関して、「操作ミスで送信コードを混ぜてしまった」と容疑を一部否認しています。掲示板上でも容疑者がお詫び文を掲載して該当者に謝罪しているのが分かりますが、謝って済まされる話ではないでしょう。
出典:ITpro
不正指令電磁的記録作成罪について
ちなみに不正指令電磁的記録作成罪・提供罪は、正当な理由なく他人の電子計算機に意図に反する不正な動作をさせるための電磁的記録を作成・提供した者に課される刑罰です。いわゆる、「ウイルス作成罪」と呼ばれるサイバー犯罪の一種です。該当者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
2011年に施行されたばかりですが、ここ数年間で被疑者数は右肩上がりに増加しています。年代別に分析すると、なんと14~19歳の未成年者が最も多く検挙されていることに驚かされます。
出典:警察庁
私も大学生の時にプログラミングを専攻していたのでよく分かりますが、オリジナルのプログラム作成にはテレビゲームの攻略に似たスリルや快感があり、時間を忘れて没頭してしまうほどの中毒性があります。コンピュータウイルスを自作しばらまいているプログラマーは、おそらくゲーム感覚でこの類の犯罪に手を染めているのでしょう。
2016年2月には東京都在住の高校1年生の男子生徒(16)がネットの掲示板に遠隔操作ウイルスをアップロードし、ユーザーのID・パスワードを不正入手。その販売代金としてビットコインを入手し、不正司令電磁的記録保管・同提供および不正アクセス禁止法違反容疑で書類送検されました。最近では2017年6月にも、大阪府内の男子中学生がランサムウェアを作成して逮捕されたことで話題を呼びました。
プログラミングは若い人ほど上達が早く、思春期特有の自己顕示欲を簡単に満たせる危うさがあります。今後も多くの若年者がサイバー犯罪に関与し逮捕されていくのは想像に難くありません。
今回のケースは、どれだけ仮想通貨のセキュリティ技術が進歩しても、それを扱う人間の心の隙を突けば子供でも仮想通貨を盗むことくらい造作なく出来るという実例です。仮想通貨取引所にハッキングのリスクがあるのはもちろんのこと、不特定多数向けに提供されているアプリにもウイルスが混入している可能性を十分に警戒すべきでしょう。
悪報2:農業系ベンチャーがICO後に「ち〇こ」と書き残して失踪(笑)
ICOのマーケットプレイス・TokenDesk上でICOにより資金調達を目指していたProdeumという団体の行動がネット上で波紋を広げています。
Prodeumは、これまでPLU(バーコード)で管理されてきた果物や野菜などの農作物の流通をイーサリアム・ブロックチェーン技術によって効率化することを目指すスタートアップ。生産地や鮮度などの情報を自由にトラッキングできるシステムが構築されれば、より消費者の利便性が高まると宣伝していました。目標資金調達額は約650万ドル(およそ7億円)。ロードマップも丁寧に記述されており、どのくらいの資金が集まるか注目されていました。
ところが、1月28日に突如Prodeumのページが消失。Webサイトにアクセスしてみると、画面左上に小さく「ち〇こ」と書かれているだけ。ICO中止などの報告は一切なく、関係者は忽然と姿を消してしまいました。
ちなみに集まった金額は、わずか11ドル。もともと怪しまれていたICOだったので、大半の投資家は避けていたようです。不謹慎極まりないイタズラですが、このニュースを聞いた時思わず笑ってしまったのは私だけではないでしょう。
しかし、この騒動に対して非常に憤慨している方々もいます。Prodeumの公式サイト上でメンバーとして紹介されていたダリウス・ルーゲビシャス(Darius Rugevicius)氏、ヴィータウタス・カセータ(Vytautas Kaseta)氏、マリオ・パゾス(Mario Pazos)氏の3名です。
彼らは実在の人物で、実際に様々なブロックチェーンのスタートアップに関わってきたプロフェッショナルです。何の関係も無いICOに勝手に名前を使われ、名誉を深く傷つけられたことに激怒。今回の詐欺行為に対して、法的措置も検討しているそうです。
独自トークンで資金調達できるICOではIPOと違って証券取引所の審査等が一切なく、小規模なベンチャー企業でも手軽に資金を調達できるメリットがあります。しかしそれは投資家にとってのデメリットでもあり、詐欺団体に金をだまし取られてしまうリスクがあります。
今回のケースはまさにその実例。ICOが詐欺の温床になっている現状がよく分かります。素性の分からない相手に軽々しく出資するのは避けた方が良いでしょう。
悪報3:テザー社が監査を打ち切られ、USDTがビットコインの市場操作に利用されている疑惑が深まる
多くの仮想通貨は有志の団体によって発行・管理されており、法定通貨とは無関係な値動きを示します。しかし、テザー社が発行しているTether(テザー:USDT)は米ドルの価格と連動しており、その価値は1USDT=1USDで推移しています。
1テザーに対して1ドルの準備金を担保とすることで仮想通貨の価値を保証しているのが特徴的。値動きが激しすぎるビットコインよりテザーで管理した方が事業面で圧倒的に便利であり、テザーはデジタル化された法定通貨として広く活用されてきました。
しかし、ここにきてテザーに対する信頼が大きく揺らいでいます。
テザーを発行しているテザー社の活動には非常に疑わしい点が多く、これまでにも以下のような事態が発生して投資家を混乱させてきました。
- テザー社およびグループ会社の取引所・ビットフィネックス社の運営実態が不明瞭。
- 2017年4月、テザー社とビットフィネックス社が取引していた台湾の銀行との関係が中断し、一時出金不能に陥った。
- 2017年9月、第三者機関による監査を公言したにもかかわらず、信用性の乏しい内部調査文書の発表のみに留まった。
- 2017年11月、テザーウォレットがハッキングに遭い、不正に3,095万ドル(約35億円)が盗まれた。
- 2017年12月、匿名で批判を続けるブロガー等に対して法的措置を辞さないとビットフィネックス社が脅迫じみた警告を発した。
そして先週、テザーがビットコインの市場操作に利用されているという匿名の分析レポートが発表され、業界は騒然としました。その要点は以下の通りです。
- 2017年9月~2018年1月の間に、USDTの発行量は10倍近くも不自然に増加している。
- テザー社は顧客から受け取った米ドルの分量だけテザーを発行することになっているが、本当にこれだけの準備金を有しているのか明確に証明できる資料が存在しない。
- ビットコインの急激な価格上昇の大半は、新規USDTが発行されてビットフィネックスのウォレットに着金してから2時間以内に発生している。
- 同取引期間のわずか3%足らずの大口取引で価格が急騰するのは、確率的に見て明らかに逸脱した現象である。
つまり、銀行との関係を失った後、取引所の流動性を確保するためにUSDTを不正に増やし、テザー社とビットフィネックス社が結託してビットコイン価格の市場操作を行ってきた可能性があると指摘しているのです。
さらに、一連の疑惑を払拭するためにかねてから監査を依頼していた監査法人・フリードマンLLPが、テザー社との関係を打ち切ってしまいました。その理由について、広報担当者は以下のように説明しています。
「単純な貸借対照表履歴で現在テザーがおかれている複雑な状況を期間内に監査することは不可能である。これまで経てきた過程やこのレベルの透明性を追求するのはテザー社が初のケースであり、成否を判断するベンチマークもない。」
Tether Confirms Its Relationship With Auditor Has 'Dissolved'
出典:coindesk
頼みの綱の監査法人から拒絶されてしまったことで、テザー社への疑念はますます強いものになりつつあります。
もちろん、この匿名レポートはテザー社への監査の必要性を説いているだけで、不正行為を証明するものではありません。しかし、USDTの正確な履歴データや準備金の不正用途の有無などの信用情報を開示できないとなると、テザー社が第2のコインチェックになりかねないリスクがあります。
テザーは仮想通貨業界を支えてきた基軸的仮想通貨なので、万一この疑惑が事実だと判明したら市場に大混乱をもたらすことは間違いないでしょう。
まとめ
仮想通貨は政府や銀行等の中央機関に対して不信感を抱いている人々から支持されている人気資産ですが、その正体を正確に理解している人はほとんどいません。「他の人たちも使っているから」という安易な理由だけで、実態の分からない団体が発行・管理しているものになんとなく追従しているのが実情です。
ネットで検索すれば仮想通貨の情報はいくらでも手に入りますが、「その情報が本当だという証拠がどこにあるのか?」と言われると話は非常にややこしくなってきます。もともとインターネット自体が真実と虚構の混じりあった玉石混交の世界であり、なんでもかんでも信用していると痛い目に遭います。
仮想通貨のテクノロジーは、間違いなく将来性に長けています。しかし、その威光を利用して詐欺をたくらむ不届きものが蔓延っているのは本当に腹立たしい話です。仮想通貨の「独立性」と「投資家の保護」を両立できる法規制を実現するのは容易ではありませんが、少しでも仮想通貨相場の健全性が高まることを期待したいものです。